第28話   「垂釣筌」に見る釣の考え方  平成15年8月28日


作者陶山七平儀信は槁木と号し家禄
300石取りの大身で現役を引退後「釣岩図解」を著した。其の補完というべき物が「垂釣筌」という本である。上級武士として釣を嗜み、本来の武士の心身の鍛錬としての「釣芸」をあくまでも守ろうとした気概が感じられるのであるが、一釣師として書いたこの本は、漢文で書かれていたにもかかわらず、単なる堅物の武士が書いた物とは違い、釣好きの武士たちには大変面白く読めたのである。もちろん、漢文など自分の力では到底読める処ではではないが・・・。

「一竿の直(あたい=価値)は円金(小判)、一条(ハリス、道糸)の直は方金(一、二朱銀)、蝦(エビ)の直は五つの鳶眼(アナアキセン=一文銭)に当たる」と云う下りがある。当時の釣具の価値観を表現したものと考えられて非常に面白く拝見した。現在当時の竿があればの話であるが、幕末から明治にかけての名人により作られた庄内竿の名竿は現在では芸術品としての価値を含め軽く百万を下らないであろう。銘が入ってないもので、多分○○作の竿であろうと云われる物でも四、五十万では中々買えない。明治の名人上林義勝の竿なんか、竿として第一級品で当時でさえ高級将棋、碁盤に使う榧の木製の風呂とか総ヒバ作りの風呂と交換したという話さえあるから軽く百万はするだろう。まずまずの竿が小判で買えるという話であったのであろう。10両盗めば首が飛んだ時代である。

基本的に自分の竿は手間隙かけて自分で作っていた時代である。竿のあくまでも高い安いでなく自家用としての優秀な竿を精魂込めて自分で作り、其れを使って秋磯に上がり黒鯛を狙う事が「士族の釣」としての誇りであったように感じられる。「名竿は名刀より得がたし・・・」とまで評された庄内竿である。


                                          参考図書「垂釣筌」